地震保険では、具体的損害査定は自動車保険などと異なり、「日本損害保険協会」により定められた「地震保険損害査定指針」に沿って行われます。
各損害保険会社は、それぞれ「地震保険損害査定要綱」を定め、地震により被害を受けた契約者に迅速、円滑、公平に損害調査を行うため損害査定基準が設けられていますが、この「地震保険損害査定要綱」は一般には公表されていないため、具体的な査定基準はあまり知られていません。
目次
2017年1月の地震保険改定で変わった地震保険の損害認定区分
2017年1月以前は地震保険の損害認定区分が3区分(全損、半損、一部損)でしたが、半損を2分割し、4区分(全損、大半損、小半損、一部損)となりました。
具体的な損害認定の比較は以下のとおりです。
2017年1月1日以降保険始期契約 | 2017年1月1日以前保険始期契約 | ||
全損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の50%以上の場合 | 全損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の50%以上の場合 |
大半損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の40%以上50%未満の場合 | 半損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の20%以上50%未満の場合 |
小半損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の20%以上40%未満の場合 | ||
一部損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の3%以上20%未満の場合 | 一部損 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の3%以上20%未満の場合 |
対象外 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の3%未満の場合 | 対象外 | 建物の主要構造部の損害の額が、その建物の時価の3%未満の場合 |
この認定基準は「火災」「損壊」「埋没」「流出」の被害を受けた建物に適用され、最も基本となる基準です。
東日本大震災などの大規模地震発生時の損害保険会社の裏事情とは
損害保険会社の組織は大まかに区別すると、「営業部門」と「損害査定部門」「事務部門」に区分されますが、地震などの際に損害査定や保険金支払業務を行うのは、主に損害査定部門です。
2011年3月に発生した「東日本大震災」や2016年4月の「熊本地震」などの大地震の際は、一度に多くの被害が発生するため、「損害査定部門」の人員だけでは対応できず、他の部門からも応援に駆け付けます。
その際、普段損害査定業務を行っていない他の部門の社員には、臨時に研修を行い、わずかな知識で被災した家屋などの現地調査に行くことになります。
地震保険の損害査定は、このような社員でも簡単に建物などの損害査定業務ができるように、簡易的な方法で損害調査ができるようになっているのです。
地震保険における木造住宅の損害査定の詳細を解説
火災保険では建物の損害額を算出するのに、基本的には修理費などを参考にしますが、地震のように一度に多くの被害が発生する地震保険での損害認定の際には、建物の被害を構造ごとに的確に反映し、効率的に調査がすすむように、建築基準法の主要構造部の損害状況で被害割合を算出する方法が採用されています。
また、木造住宅は建物の建築方法によって、損害認定の際の調査対象(着目箇所)が異なります。
建築工法 | 調査対象(着目箇所) |
在来軸組工法(在来工法) | 基本的に「軸組」「屋根」「基礎」「外壁」の4箇所の損害程度に着目する |
枠組壁工法(ツーバイフォー工法など) | 基本的に「外壁」「内壁」「基礎」「屋根」の4個所の損害程度に着目する |
在来軸組工法(在来工法)の損害認定方法
在来軸組工法(在来工法)は日本の建物の最も一般的な工法です。
特徴は、コンクリートで布基礎を作り、その上に土台を置き、柱を立てて小屋組み、屋根組みなどの軸組で建物の骨格を作ります。
地震の被害は軸組(柱)や屋根、外壁、基礎に現れることが一般的です。
全損、大半損、小半損、一部損の損害認定基準の詳細
全損、大半損、小半損、一部損の損害認定は、在来軸組工法(在来工法)用の「損害認定基準表」を使って行います。
調査する箇所は、主要構造部にあたる「柱」「基礎」「屋根」「外壁」の4個所になります。
調査の手順は以下のとおりです。
- 「柱」「基礎」「屋根」「外壁」4項目の被害状況を確認して、各項目ごとの物理的被害割合を算出する。
- 算出した4項目の被害割合を合計して、「損害認定基準表」に当てはめ、全損、大半損、小半損、一部損の判定を行う。
柱の損傷と認められるものとは
柱が損傷していると認められる状態とは以下のとおり
- 柱が3度以上傾いている
- 柱が移動している
- 柱が沈下している
- 柱のひび割れが柱の長さの3分の1以上ある
- 柱の断面積の3分の1以上ある
- 折損がある
*全柱の本数は簡易的に延べ床面積(㎡)×1.2(2階建ての専用住宅の場合)で求めることも可
基礎の損傷と認められるものとは
基礎の損傷と認められるものとは以下のとおり
基礎の「ひび割れ」「沈下」「移動」「流出」したもので、修復が必要な長さをいいます。
また、ひび割れが1mに満たないものは1mとして計算します
*布基礎の場合、基礎の損傷を見るのは外周の布コンクリートだけを調査し、間仕切り基礎や独立基礎は調査しません。
*外周布コンクリートの長さは簡易的に1階床面積(㎡)×0.52で計算する。
屋根の損傷と認められるものとは
屋根の損傷と認められるものとは、屋根材(瓦、スレート、金属板)が剥離や破損したため、葺き替えが必要な面積です。
一般的に葺き替え面積は損傷面積の1.5倍程度になります。
全屋根面積の簡易計算方法は、瓦(スレート)屋根は1階床面積×1.4~1.5(金属板葺は1.3)で計算。
また、損傷が屋根の3分の1以上になる場合は全面葺き替えとみなします。
外壁の損傷と認められるものとは
外壁の損傷と認められるものとは、塗り壁のひび割れや剥離、破損、張りたて壁面(サイディングなど)の目地切れなどで補修が必要な状態です。
*全外壁面積は、簡易的に建物の延べ床面積(㎡)×1.5で算出します。
在来軸組工法(在来工法)の各項目毎の物理的損傷割合表
主要構造部にあたる「柱」「基礎」「屋根」「外壁」の各項目毎に、下記「物理的損傷割合表」にあてはめ、それそれ損害割合を算出して、その合計が建物全体の損害割合となります。
柱(軸組)の損害認定基準表 表1 | |||
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) | ||
平屋建て | 2階建て | 3階建て | |
3%以下 | 7% | 8% | 8% |
3%を超え5%以下 | 12% | 13% | 14% |
5%を超え10%以下 | 19% | 20% | 21% |
10%を超え15%以下 | 25% | 27% | 28% |
15%を超え20%以下 | 29% | 31% | 32% |
20%を超え25%以下 | 33% | 36% | 37% |
25%を超え30%以下 | 37% | 40% | 41% |
30%を超え40%以下 | 41% | 45% | 46% |
40%を超える場合 | 全損 | 全損 | 全損 |
基礎の損害認定基準表 表2 | |||
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) | ||
平屋建て | 2階建て | 3階建て | |
5%以下 | 3% | 2% | 3% |
5%を超え10%以下 | 5% | 4% | 5% |
10%を超え20%以下 | 8% | 7% | 8% |
20%を超え30%以下 | 10% | 9% | 11% |
30%を超え50%以下 | 11% | 11% | 12% |
50%を超える場合 | 全損 | 全損 | 全損 |
屋根の損害認定基準表 表3 | |||
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) | ||
平屋建て | 2階建て | 3階建て | |
10%以下 | 2% | 1% | 1% |
10%を超え20%以下 | 4% | 2% | 1% |
20%を超え30%以下 | 6% | 3% | 2% |
30%を超え50%以下 | 8% | 4% | 3% |
50%を超える場合 | 全損 | 全損 | 全損 |
外壁の損害認定基準表 表4 | |||
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) | ||
平屋建て | 2階建て | 3階建て | |
10%以下 | 2% | 2% | 2% |
10%を超え20%以下 | 3% | 5% | 5% |
20%を超え30%以下 | 4% | 7% | 7% |
30%を超え50%以下 | 7% | 11% | 11% |
50%を超え70%以下 | 10% | 15% | 15% |
70%を超えるもの | 全損 | 全損 | 全損 |
木造2階建て在来軸組工法(在来工法)の損害認定事例
それでは、実際に木造2階建て在来工法の住宅が地震による被害を受けた場合を想定して、地震保険の損害認定をしてみたいと思います。
木造2階建て在来軸組工法(在来工法)の住宅被害例
木造2階建て瓦葺住宅 延床面積120㎡(1階60㎡ 2階60㎡)の場合
- 軸組(柱):建物内の軸組(柱)3本にひび割れが発生
- 基礎:布基礎に2個所のひび割れが発生
- 屋根:瓦屋根に1㎡大にズレている部分が2個所あった
- 外壁:外壁に3個所の亀裂があった
建物の損害認定は以下のとおりとなります。
主要構造部 | 物理的損害割合計算式(小数点以下第1未満は切上げ(5.601→5.7) | 物理的損害割合(%) |
軸組(柱) | 損傷柱本数÷全柱本数 (3本÷144本) | 2.1% |
基礎 | 損傷布基礎長÷外周布基礎長 (2m÷31.2m) | 6.5% |
屋根 | 屋根の葺き替え面積÷全屋根面積 (2㎡÷90㎡) | 2.3% |
外壁 | 損傷外壁面積÷全外壁面積 (15㎡÷180㎡) | 8.4% |
上記物理的損傷割合をもとに、上記表1~4の黄色の数字を合計して建物全体の物理的損害割合を算出します。
「柱」8% +「基礎」4% +「屋根」1% +「外壁」2% = 15%
この木造2階建て在来軸組工法(在来工法)の住宅被害例の合計損害割は15%となりましたので、地震保険の損害認定は「3%以上20%以内」なので「一部損」となります。
枠組壁工法(ツーバイフォー等)の損害認定方法
枠組壁工法の損害認定方法は、在来軸組工法(在来工法)とは若干異なり、全損、大半損、小半損、一部損の認定は、木造建物枠組壁工法用の「損害認定基準表」を使用します。
損傷の有無や損傷の程度は、主要構造部にあたる「外壁(1階の外壁面)」「内壁(1階の入隅部)」「基礎」「屋根」の4個所になります。(在来軸組工法との違いは、軸組ではなく1階の入隅部を調査します)
*入隅部とは、、壁や板が出会う箇所で「内側の隅」のことを表します。
枠組壁工法の全損、大半損、小半損、一部損の損害認定基準の詳細
調査の手順は以下のとおりです。
- 「外壁」「内壁」「基礎」「屋根」4項目の被害状況を確認して、各項目ごとの物理的被害割合を算出する。
- 算出した4項目の被害割合を合計して、「損害認定基準表」に当てはめ、全損、大半損、小半損、一部損の判定を行う。
外壁の損傷と認められるものとは
枠組壁工法の損害認定方法は、在来軸組工法の損害認定とは異なり、外壁の損傷は1階部分のみで行い、損傷程度は「損傷外壁の水平長さ」で判断します。
外壁が損傷していると判断する定義は以下のとおりです。
- 壁の傾斜角度が1度以上あるもの
- 外壁表面に亀裂や破断がある
- 外壁面及び壁の継ぎ目に亀裂、剥落、破損、張りたて面の目地切れ等があり、補修が必要
- 外壁建具の枠の変形や開閉不能、施錠付加の場合
*壁の傾斜角度が1度以上ある場合は、その外壁面の長さを損傷長とする
*壁に入る縦の亀裂の場合は、損害がボード単位で発生することから、1個所あたり0.9mとする
*外部建具変形や建てつけ不良、施錠困難な損傷がある場合は、外部建具の横幅を損傷長とする
内壁の損傷と認められるものとは
内壁の損傷は、「1階の入隅部分の損傷個所の数」を確認します。
枠組工法は壁や床などで主に構成されているため、接合部分に損傷が現れることが多くなっています。
内壁の入隅箇所の損害と認められる状態とは以下のとおり
- 入隅箇所のクロスの「しわ」や「目地切れ」が認められる
- 両隅に被害がない場合で、内部建具周りに被害があるものは、隣接する入隅の両方を損傷個所として数える
基礎の損傷と認められるものとは
基礎の損傷と認められるものとは以下のとおり
基礎の「ひび割れ」「沈下」「移動」「流出」したもので、修復が必要な長さをいいます。
また、ひび割れが1mに満たないものは1mとして計算します
*布基礎の場合、基礎の損傷を見るのは外周の布コンクリートだけを調査し、間仕切り基礎や独立基礎は調査しません。
*外周布コンクリートの長さは簡易的に1階床面積(㎡)×0.58で計算する。
屋根の損傷と認められるものとは
屋根の損傷と認められるものとは、屋根材(瓦、スレート、金属板)が剥離や破損したため、葺き替えが必要な面積です。
一般的に葺き替え面積は損傷面積の1.5倍程度になります。
全屋根面積の簡易計算方法は、瓦(スレート)屋根は1階床面積×1.4~1.5(金属板葺は1.3)で計算。
また、損傷が屋根の3分の1以上になる場合は全面葺き替えとみなします。
外壁の損傷と認められるものとは
外壁の損傷と認められるものとは、塗り壁のひび割れや剥離、破損、張りたて壁面(サイディングなど)の目地切れなどで補修が必要な状態です。
*全外壁面積は、簡易的に建物の延べ床面積(㎡)×1.5で算出します。
枠組壁工法の各項目毎の物理的損傷割合表
枠組壁工法の主要構造部にあたる「外壁」「内壁」「基礎」「屋根」の各項目毎に、下記「物理的損傷割合表」にあてはめ、それぞれ損害割合を算出して、その合計が建物全体の損害割合となります。
外壁の損害認定基準表 表5 | |
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) |
3%以下 | 2% |
3%を超え5%以下 | 4% |
5%を超え10%以下 | 16% |
10%を超え15%以下 | 28% |
15%を超え20%以下 | 34% |
20%を超え25%以下 | 39% |
25%を超える場合 | 全損 |
内壁の損害認定基準表 表6 | |
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) |
3%以下 | 3% |
3%を超え5%以下 | 5% |
5%を超え10%以下 | 21% |
10%を超え15%以下 | 35% |
15%を超える場合 | 全損 |
基礎の損害認定基準表 表7 | |
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) |
3%以下 | 1% |
3%を超え5%以下 | 2% |
5%を超え10%以下 | 5% |
10%を超え15%以下 | 6% |
15%を超え20%以下 | 7% |
20%を超え25%以下 | 9% |
25%を超え35%以下 | 10% |
35%を超える場合 | 全損 |
屋根の損害認定基準表 表8 | |
被害の程度(物理的損傷割合) | 損害割合(%) |
3%以下 | 1% |
3%を超え10%以下 | 2% |
10%を超え15%以下 | 3% |
15%を超え20%以下 | 5% |
20%を超え25%以下 | 6% |
25%を超え30%以下 | 7% |
30%を超え40%以下 | 8% |
40%を超え55%以下 | 9% |
55%を超えるもの | 全損 |
木造2階建て枠組壁工法の損害認定事例
それでは、実際に木造2階建て枠組壁工法の住宅が、地震による被害を受けた場合を想定して地震保険の損害認定をしてみたいと思います。
木造2階建て枠組壁工法の住宅被害例
木造2階建て瓦葺住宅 延床面積120㎡(1階60㎡ 2階60㎡)の場合
- 外壁:1階と2階に各1個所のひび割れが確認できる(それぞれ水平長さ1.5m)
- 内壁:1階の内壁にひび割れがあり、入隅損傷個所は2個所
- 基礎:布基礎に2個所のひび割れがあった
- 屋根:瓦屋根に1㎡大にズレている部分が2個所あった
建物の損害認定は以下のとおりとなります。
主要構造部 | 物理的損害割合計算式(小数点以下第1未満は切上げ(5.601→5.7) | 物理的損害割合(%) |
外壁 | 1階の損傷外壁水平長さ ÷1階の外周延べ長さ (1.5÷34.8) | 4.4% |
内壁 | 1階の損傷入隅数×0.5 | 4.2% |
基礎 | 損傷布コンクリート長さ ÷外周布コンクリート長さ (2㎡÷34.8㎡) | 5.8% |
屋根 | 屋根の葺き替え面積÷全屋根面積 (2㎡÷90㎡) | 2.3% |
*1階の外周延べ長さは簡易的に1階の床面積×0.58で計算する
上記物理的損傷割合をもとに、上記表5~8の黄色の数字を合計して建物全体の物理的損害割合を算出します。
「外壁」4% +「内壁」5% +「基礎」5% +「屋根」1% = 15%
この枠組壁工法の住宅被害例の合計損害割は15%となりましたので、地震保険の損害認定は「3%以上20%以内」なので「一部損」となります。
地震保険損害査定の2次査定とは
地震保険の損害査定を行った結果、合計損害割合が50%に満たない場合で、上記4項目の規模が小さいにもかかわらず、内壁や床組みの損害が大きい場合や、全損・大半損・小半損・一部損のボーダーラインの場合には、更に詳しく査定する「二次査定」を行う場合もあります。
建物の損傷以外で地震保険の支払い対象になる場合
地震により建物に損害が発生すれば、主要構造部である4項目の損害査定で損害割合が決まりますが、その他の支払基準も存在します。
地すべりその他の災害による認定基準
地震等を直接または間接の原因とする「地すべり」や「山崩れ」、「がけ崩れ」、「土石流」によって建物に損害が発生し、継続して居住できないような状態になれば、その建物を全損として扱います。
床上浸水による認定基準
建物の主要構造部である4項目には被害が出ない「水災被害」では、主要構造部のみの査定では対象にならないために、津波等による床上浸水は一部損として扱います。(この場合の損害認定は一部損だけです)
また、津波による損害や液状化現象による損害認定基準も別に設けられています。