交通事故で交渉を弁護士に依頼すべき場合とは?

弁護士費用特約のすすめ
真由美さん
最近弁護士事務所が交通事故の賠償金が増えるって宣伝してるけど本当ですか?
元支社長
弁護士に依頼すると交通事故の賠償金が増える場合がありますが、あまり効果がない場合もあります。どんな事故の時に弁護士に交渉を依頼すると得か説明しましょう

最近はテレビやラジオ、インターネットで、弁護士事務所が宣伝していますが、交通事故に遭ったら、相手の保険会社との交渉を弁護士に依頼すれば、損害賠償金が増額できる可能性があるとの内容です。

これは、自動車保険の「弁護士費用特約」が一般化してきて、多くの人がこの特約に加入していることと、「弁護士費用特約」が使えない事故の場合や、加入していなくても、損害賠償の交渉を弁護士に依頼した方が、損害賠償金を増額できることがあるからです。

交通事故を起こして、自分が受けた損害の賠償金の交渉を弁護士に依頼するかどうかを、検討するには、まず加入している自動車保険に「弁護士費用特約」が付いているかどうかを確認する必要があります。

弁護士費用特約が使えれば絶対弁護士に依頼するべき

自動車保険の特約には「弁護士費用特約」があり、ほとんどの自動車保険では、弁護士費用300万円(法律相談は10万円まで)まで補償されますので、事故の加害者(実際は加害者が加入している自動車保険の事故担当者)との交渉を全て弁護士に任せることができます。

今では約70%の人がこの弁護士費用特約に加入していますが、この弁護士費用特約を利用できる条件が「もらい事故」や「被害事故」「無責事故で賠償請求された場合」と規定されている自動車保険が主流です。

自分に過失があっても弁護士費用特約は使えるの?

「弁護士費用特約」の使える条件が、「もらい事故」や「被害事故」「無責事故で賠償請求された場合」と規定されている自動車保険が多いですが、加害者と自分と両方に過失がある事故でも、自分や家族の車や身体に損害があれば、「被害事故」となり、「弁護士費用特約」を利用することができます。

もらい事故とは
もらい事故とは、自分に過失がなく、相手が100%悪い事故で、代表的なものは、
・信号待ちをしていたら、後ろから追突された
・対向車がセンターラインを超えて衝突してきた
・駐車中に、一方的にぶつけられた
・交差点で相手が赤信号で進入してきて衝突した など

被害事故とは
自動車事故やその他の偶然な事故で、自分や家族の車や身体が損害を被ったりした事故

無責事故とは
自分が所有・使用・管理する車に偶然起きた事故により、他人が死傷したり、他人の財物が損壊した場合に、客観的に自分や家族に法律上の賠償責任がない事故

 

交通事故で、賠償金の交渉を弁護士に依頼しても経費倒れになる場合

交通事故は大きく分類しますと、物損事故と人身事故に分類されますが、「弁護士費用特約」が使えない事故では、自分が受けた損害の賠償金について、相手との交渉を弁護士に依頼してもあまり効果がなく、弁護士に支払う経費倒れになる場合があります。

弁護士に支払う報酬とは
平成16年4月に弁護士報酬が自由化されてからは、各弁護士事務所が自由に弁護士報酬を設定できるようになりましたが、旧規定を採用している事務所では、
項目弁護士報酬料
法律相談料30分ごとに5000円~25000円
着手金経済的利益が300万円以下 8%
経済的利益がが300万円超~3000万円以下 5%+9万円など
成功報酬経済的利益が300万円以下 16%
経済的利益が300万円超~3000万円以下 10%+18万円など
その他弁護士の日当半日で3万円~5万円 1日で5万円~10万円

今では、法律相談料や着手金が無料で、完全成功報酬制が増えていて、その場合の成功報酬は、経済的利益の10%+20万円のパターンが多いようです。

物損事故の場合

物損事故の被害者になった場合は、車などの財産を修理する費用や、全損(修理ができない状態)の時の賠償金についての交渉になりますが、この財産についての交渉を弁護士に依頼しても受け取れる保険金が増えることはあまりありません。

物損事故の場合は、損害賠償として、加害者に車などの修理費や時価額相当の賠償金及び休業損害などを請求する事はできますが、慰謝料の請求は原則できません。

車などの「もの」の損害については、修理などで元通りに直ることや、同じものがまた買えることで、受けた被害が回復するとの考え方があるからです。

修理費や買い換え費用を受け取る事で被害が回復するのであれば、精神的な被害も発生しないとの考え方が主流で、慰謝料が発生しないのです。
実際に過去の裁判事例でも、物損事故に対して慰謝料が認められたケースというのはほとんどありません。

弁護士費用特約が使える事故であれば、休業損害や車の格落ち損害などは、弁護士に依頼することで、自分で相手の保険会社と交渉するより、賠償金を増額できますが、自分で弁護士費用を払うのでは経費倒れになります。

人身事故でケガの程度が軽い場合

人身事故と言っても、そのケガの程度はまちまちで、大きな事故で入院が数か月にもなり、後遺障害まで発生する事故から、1日~2日くらいの通院で治ってしまう事故もあります。

後遺障害が発生するような大きな人身事故であれば、自分でお金を払ってでも弁護士に交渉を依頼することで、受け取れる賠償金が大幅に増えることはありますが、1日~2日程度の通院で治ってしまうケガの場合は、あまり効果がありませんので、弁護士に支払う報酬で費用倒れになってしまいますが、「弁護士費用特約」が使えるのであれば、弁護士費用がかかりませんので、交渉を弁護士に任せてしまうのもいいでしょう。

自分の過失割合が多い場合

後遺障害が発生するような大きなケガを被った場合でも、交通事故の形態により発生する過失割合で、自分の責任割合が相手よりも多いと、結果的に受け取れる保険金は少なくなってしまいますので、自費で弁護士に交渉を依頼しても費用倒れになってしまいます。

たとえば、交差点の事故で次のようなパターンでは、

交差点の事故 片方に一時停止規制

Aさんは交差点を直進
Bさんは一時停止しないで交差点に進入

基本過失割合
Aさん20%
Bさん80%

基本過失割合はAさんが20%でBさんが80%となり、もしBさんがケガをしてもAさんに請求できる賠償金は治療費や慰謝料などの20%になりますので、交渉を弁護士に依頼しても費用倒れになる可能性が高くなりますが、発生する後遺障害の程度が重かったり、死亡などの場合は、損害賠償金が高額になりますので、弁護士に交渉を依頼しても費用倒れにならないこともあります。

交通事故の交渉を弁護士に依頼するべき事故

交通事故が起きて、相手との交渉を「弁護士費用特約」が使えなくても弁護士に依頼するべき場合とは、人身事故の被害者になり、長期入院や通院を余儀なくされ、後遺障害認定を受けたり、死亡した時です。

後遺障害が発生した場合

人身事故に遭い、大きなケガをして後遺障害が発生した場合、加害者が加入している自動車保険から、後遺障害保険金(後遺障害慰謝料と逸失利益の合計)を受け取ることができますが、その後遺障害保険金の多くを占める後遺障害慰謝料には、自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3つの支払い基準があります。

この3つの基準の金額の大きさは、自賠責基準<任意保険基準<弁護士基準の順番となっています。

後遺障害の等級別慰謝料比較(逸失利益を認定しない場合)

後遺障害等級自賠責基準A損保会社任意保険基準弁護士基準
1級1100万円1500万円2800万円
2級958万円1325万円2370万円
3級829万円1150万円1990万円
4級712万円980万円1670万円
5級599万円830万円1400万円
6級498万円700万円1180万円
7級409万円580万円1000万円
8級324万円450万円830万円
9級245万円350万円690万円
10級187万円250万円550万円
11級135万円185万円420万円
12級93万円125万円290万円
13級57万円75万円180万円
14級32万円45万円110万円

交通事故の被害者になり、後遺障害が発生するような大ケガをした場合は、交通事故の交渉を得意としている弁護士に交渉を依頼した方が、受け取れる後遺障害の慰謝料は確実に増えますし、その他過失交渉や後遺障害認定、逸失利益の計算方法についても有利な交渉ができます。

逸失利益とは
逸失利益(いっしつりえき)とは、交通事故で足や腕を切断したり、一生車いすや寝たきりなどの後遺障害となったために労働能力が減少し、交通事故に遭わなければ本来得ることができた、将来の収入の減少による損害のこと。

死亡事故の場合

後遺障害の場合と同様に、交通事故の被害者になり死亡した場合も、加害者が加入する損害保険会社との交渉は弁護士に任せた方が、より多くの損害賠償金を請求できます。

死亡慰謝料の比較(本人の慰謝料)

本人の立場自賠責基準A損保会社任意保険基準弁護士基準
一家の支柱350万円1700万円~1850万円2800万円~3600万円
18歳未満の者350万円1450万円~1600万円1800万円~2600万円
高齢者350万円1400万円~1500万円1800万円~2400万円
その他350万円1450万円~1600万円2000万円~3000万円

自賠責保険では本人以外の遺族の慰謝料も支払われます

本人慰謝料慰謝料請求権者非扶養者が居る場合の加算
1名2名3名以上
350万円550万円650万円750万円200万円

*死亡慰謝料請求権者とは、父母・配偶者(内縁を含む)・子(養子、認知した子、胎児を含む)です。

また、死亡慰謝料のほかにも、死亡事故の場合は、逸失利益の交渉も弁護士に任せた方が、賠償金が増額される可能性が非常に高いので、弁護士費用特約が使えなくても、自分でお金を払ってでも弁護士に交渉をお願いする方が賢明です。

まとめ

交通事故に遭って、相手が加入している損害保険会社と交渉するうえで、人身事故の損害賠償金の基準となるのは、自賠責保険や損害保険会社が決めている基準が交渉のベースになりますが、実際に交渉がこじれて裁判まで発展すると、過去の裁判で判決が下りた金額(過去の判例)が裁判所の判断基準になります。

人身事故の被害者が、弁護士に頼らず被害者やその家族が、自ら損害保険会社と損害賠償金の交渉を行うと、結局損害保険会社が決めた基準での損害賠償金しか払ってもらえませんが、弁護士に交渉を依頼すると過去の裁判所の判例を参考にした弁護士基準が交渉のベースになりますので、損害保険会社は最初から弁護士基準に従わざるを得ないのです。

損害保険保険会社は人身事故の被害者との交渉に、弁護士が介入してくると、その事故の支払い備金(保険金を支払うための準備金)を大幅に増やします。
その理由は人身事故の被害者との交渉に弁護士が介入してくると、必ず支払う損害賠償金が大幅に増えるためです。

私も自分の家族には、もし誰かが交通事故で大ケガを被ったり、死亡した場合は必ず弁護士に交渉を依頼するように普段から伝えているほどです。

弁護士事務所を選ぶ場合の注意点

弁護士に交渉を依頼する場合は、必ず事前に事故の状況や、弁護士に交渉を依頼した場合の損得などを相談してからにしましょう。

弁護士への報酬は、自分で負担するには非常に高額であり、交通事故の交渉を依頼しても、かえって費用倒れになる場合も少なくなくありません。

最近テレビやインターネットなどで宣伝をしている弁護士事務所では、交通事故の交渉を依頼する前の法律相談料や着手金が無料で、成功報酬だけが請求される料金体系をとっている場合もありますので、是非利用したいものです。

注意して欲しい弁護士とは、交通事故の交渉を意図的に長引かせて、事故日から解決日までの遅延損害金(年5%)を稼ごうとするような弁護士です。(遅延損害金も損害賠償金の一部として弁護士報酬に含まれます)

テレビやインターネットで宣伝している弁護士事務所は、多くの交渉を引き受けていますので、実際に裁判になる前に、損害保険会社との交渉で終わらせることが多く、解決も早いので、そのような大規模な弁護士事務所がおすすめです。

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