いまだにニュースや新聞報道で後を絶たない「飲酒運転」ですが、飲酒運転をして事故を起こした場合、加入している自動車保険は使えるのでしょうか。
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強化された飲酒運転の罰則
まだ記憶に新しい悲惨な事故が、2006年(平成18年)8月25日に、福岡市東区の海の中道大橋で起きた飲酒運転による追突事故で、親子5人が乗った乗用車が、橋の欄干を突き破り、海に転落して、1歳、3歳、4歳の子供三人が死亡しました。
この事故の加害者である福岡市の職員は、事故直後に被害者救済などを全くせず、現場から逃走したり、飲酒の隠蔽工作などしたこともあり、危険運転致死傷罪などで懲役20年が確定しています。
当時の道路交通法では、飲酒運転をした場合、ほぼ現行犯でなければ検挙されない、いわゆる「逃げ得」の状態でしたが、この事件をきっかけに、2007年に道路交通法が改正され、飲酒運転とひき逃げの罰則が強化されました。
現在では飲酒運転による罰則は以下の通りです。
運転手の状態 | 罰則 | 違反点数 | |
酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 | 35点 | |
酒気帯び運転 | アルコール濃度0.25mg以上 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 25点 |
アルコール濃度0.15mg~0.25mg | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 13点 |
違反点数による行政処分は
35点 | 免許取消 欠格期間3年 |
25点 | 免許取消 欠格期間2年 |
13点 | 免許停止90日 |
*欠格期間とは、再度運転運転免許証を取得できない期間です。
人身事故を起こして、けが人を救護することなく、現場を逃走(ひき逃げ)すると、さらに重い罰則が適用されます
複数の違反に該当すると違反点数は加算されます。
酒酔い運転(35点)+ひき逃げ(35点)+死亡事故(20点)=90点(欠格期間10年)
もちろんこの場合は、危険運転致死溶剤が適用され、20年以下の懲役となります。
更に運転者だけでなく、車両提供者や酒類提供者も罰則の対象になっています。
車両提供者の罰則
運転者が酒酔い運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
運転者が酒気帯び運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
酒類の提供や同乗者
運転者が酒酔い運転 | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
運転者が酒気帯び運転 | 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 |
飲酒運転がなくならない訳
「またか」と思うほど飲酒運転で事故を起こしたとか、警察の検問で検挙されたとかの報道が後を絶ちませんが、何故いつまでも飲酒運転が無くならないのでしょうか。
飲酒運転は朝が危ない
飲酒運転とは、居酒屋などでお酒を飲んで、そのまま車を運転して帰ることを思い浮かべますが、そのような飲酒運転は、やはり罰則の強化と社会的批判もあり減っていますが、飲酒運転で検挙されるのは、今では朝が多いのが実態です。
夜遅くまでお酒を飲んでいたけど、睡眠を取ったことで、自分ではアルコールは残っていないと思いがちですが、実際には体内にアルコールが残っている場合が多いのです。
例えばこんな例です。
〇前日お酒を飲んで、家族で旅行に行くために、早朝から運転をした
〇友人と釣りに行くために、早朝から運転したが、前日宿泊先で宴会をしていた
警察による検問は、夜だけでなく、早朝でも行っていますので、今では、朝に飲酒運転で検挙されることが多くなっています。
アルコールが抜けるのに必要な時間
前日飲んだお酒のアルコールが抜けるまでどのくらい時間がかかるかは、飲んだ人の体質や体重で変わってきます。
人の体内で処理できる純アルコールの量は体重1㎏につき1時間で0.1gと言われていますので、体重60㎏の人は1時間に純6gのアルコールを処理できる計算になります。
飲んだお酒の量(ml)×お酒のアルコール度数(%)×0.8(アルコール比率)
それでは、睡眠時間6時間として、どの位のお酒が飲めるでしょうか。
お酒に含まれるアルコールの量の目安は
お酒の種類 | ビール 500ml | 清 酒 180ml | ウイスキー ブランデーダブル60ml | 焼 酎 180ml | ワイン 1杯120ml |
---|---|---|---|---|---|
お酒の度数 | 5% | 15% | 43% | 35% | 12% |
純アルコール含有量 | 20g | 21.6g | 20.6g | 50.4g | 11.5g |
例えば、ビールの500mlのロング缶を2本飲んだら、純アルコールの量は40gになりますので、体重60㎏の人なら、40g÷6g=6.67 になりますので、アルコールが処理されるまで約7時間必要であり、6時間睡眠であれば、少しアルコールが残っている計算になります。
もちろんこれは、体重や体質の個人差がありますので、あくまで目安になりますので、注意してください。
飲酒運転で起きた事故で自動車保険は使えるか
自動車保険では、ほとんどの補償は飲酒運転や無免許運転及び危険ドラッグなどの薬物が原因の事故は「免責」となっていますが、「対人賠償責任保険」と「対物賠償責任保険」だけは支払い対象になります。
これは、契約者のためではなく、あくまで「被害者救済」の意味合いが強く、特別に支払い対象になっていて、もちろん「自賠責保険」も同様です。
飲酒運転で事故を起こして自動車保険は何が使えるかは、以下のとおりです。
対人賠償責任保険:支払い対象(相手のケガや死亡)
対物賠償責任保険:支払い対象(相手の車や電柱など)
人身傷害保険 :運転者は支払い対象外(同乗者は支払い対象になります)
車両保険 :支払い対象外
その他特約 :支払い対象外
自動車保険は、以上のように飲酒運転の場合、ほとんどの補償が支払い対象となっていますが、飲酒運転で検挙された場合はもちろんですが、検挙に至らないアルコール濃度が0.15mg未満で、検挙に至らなかった場合でも支払い対象にはなりません。
自動車保険の「約款」には、「酒気帯び運転の場合は支払わない」と書かれていますので、アルコール呼気検査で0.15mg未満で検挙されなくても、少しでもアルコール濃度があれば、「酒気帯び」となり、保険金支払いの対象にはなりません。
まとめ
自動車保険は、酒気帯び運転や、無免許運転及び危険ドラッグなどの薬物が原因の事故は、被害者救済のための対人賠償責任保険と対物賠償責任保険以外は使えません。
飲酒運転は、「ちょっとそこまで」の運転でも事故に遭えば検挙される可能性があり、その結果、一生を台無しにして、自分だけでなく、家族や周辺の関係者全員を不幸にします。
実際私がいた会社は損害保険会社なので、飲酒運転の意識は強い社員が多いのですが、年間何人も飲酒運転で検挙され、「懲戒解雇」となっていました。
確かに被害者には、対人賠償責任保険と対物賠償責任保険である程度の償いはできますが、心のキズと社会的な汚点は一生抱えて生きていかなければなりません。
数千円のタクシー代や運転代行代などは、飲酒運転で失うものに比べればチリみたいなものなので、絶対飲酒運転はしないことと、他人にもさせないことが大事です。