誰でも気軽に乗れて便利な自転車ですが、自転車による事故では、誰でも被害者になることもあれば、加害者になることもあります。
最近では自転車事故による高額賠償金請求が話題になることがありますが、多くは自転車と歩行者の接触事故であり、自転車の無謀な運転やルール違反などが原因となっています。
ここでは、あまり知られていない、自転車に乗っている人が「非接触事故」による加害者になる事例を紹介します。
目次
自転車の非接触事故とは?
自転車事故に限らず、交通事故の多くは、車と車や車と人、自転車等との「接触事故」ですが、実際に接触していない「非接触事故」でも過失割合が発生し、加害者となることは珍しくありません。
交通事故による損害賠償も、結局は民法の「不法行為に基づく損害賠償請求」ですので、被害者に物理的に接触したかどうかは損害賠償の要件ではなく、加害者のとった行動と、被害者が受けた怪我などの損害の間に相当な「因果関係」が認められれば、たとえぶつかってない「非接触事故」でも、加害者となり、被害者にもなります。
自転車が原因の非接触事故による死亡事故例を紹介
平成23年5月の大阪府内の国道で、タンクローリーが歩道に乗り上げて、約13メートル歩道上を走行し、男性2人をはねて民家に突っ込んだ事故があり、その後男性二人は死亡し、タンクローリーの運転手(55歳)は逮捕されました。
翌日右前方を走行していた乗用車の運転手(43歳)も逮捕
現場は片側2車線の見通しの良い直線道路でしたが、当初はタンクローリーの運転手の居眠り運転か急病発症が原因と思われていましたが、タンクローリーの運転手は、警察の取り調べに対し、「右前方を走っていた乗用車が急に車線変更して割り込んで来たために、ハンドルを左に切って急ブレーキを踏んだが、間に合わなかった」と供述しました。
その後、急に車線変更してタンクローリーの進路をふさいで事故を誘発したとして、前方をふさいだ乗用車の運転手が逮捕されました。
本当の原因は道路を横切ろうとした自転車だった
逮捕された乗用車の運転手から明らかにされた事実は、意外なものでした。
ランクローリーの右前方を走っていた乗用車が急に車線変更して割り込んで来たのは、センターライン側を走行していた乗用車の目の前に、道路を横切ろうとした自転車が突然あらわれ、乗用車はそれを避けようとして急ハンドルをしてしまったのです。
実際の事故は、自転車が片側2車線の国道を無理やり横断しようと、走行中の乗用車の前に飛び出し、それを避けようとした乗用車が車線変更して、後続のタンクローリーの前方をふさいでしまったのでした。
結局裁判では、事故現場の通行料が多いことなどから、「車の通行を妨害し、事故が起きることは予見できた」と自転車の過失が最も重いとして、「重過失致死罪」で自転車の男性(60歳)禁固2年(求刑は3年6か月)の実刑判決となり、タンクローリーと乗用車の運転手は不起訴となりました。
事故が起きた道路では、ルールを無視して自転車で横断する人後を絶たないし、判決後、何か述べたいことがあるかと聞かれた男性は、「俺が悪いんですか。向こうは車で殺したんですよ」と、強い口調で言ったとのことです。
事故による賠償金はどうなる?
自転車の男性は禁固2年の刑事罰を課せられましたが、それだけではありません。
当然死亡した2人の遺族や、突っ込まれた民家の所有者からは、損害賠償請求の民事訴訟を起こされ、多額の賠償請求をされることになります。
事故の加害者であるタンクローリーと乗用車の運転手、そして自転車の男性の3人の「共同不法行為」となり、それぞれ過失割合に応じた賠償金を支払うことになりますが、裁判の結果からすると、自転車の男性が最も多くの賠償金を請求されることになります。
タンクローリーと乗用車は自動車保険に加入していると思いますので、それぞれ対人賠償保険と対物賠償保険で全額支払うことができますが、自転車の男性は、個人賠償保険などの自転車事故を補償している保険に加入していなければ、自腹で支払うことになります。
まとめ
自転車は車と比べると人間の体がむき出しで、交通弱者と思われていますが、その弱者ゆえ走行中の車は、ふらふら走行している自転車を避けようとします。
その結果、ハンドル操作を誤って歩行者をはねたり、電柱などに激突して重大な被害を発生させる可能性を秘めているのです。
そんな事故発生後に自転車が走り去ってしまえば、目撃者がいない限り自転車が責任を問われることは少ないのですが、最近ではドライブレコーダーが急激に普及していますので、自転車の運転者を特定することはかなりの確率で可能になっています。
自転車を利用する以上は、必ず自転車事故に対応している保険に加入することをおすすめします。