神奈川県大井町の東名高速道路で6月、追い越し車線で停車していた乗用車にトラックが追突し、夫婦が死亡する事故があり、県警は10日、乗用車の進路をふさいで停止させたなどとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)と暴行の疑いで、福岡県中間市扇ケ浦、建設作業アルバイト石橋和歩容疑者(25)を逮捕した。「間違いありません」と容疑を認めているという。
交通捜査課によると、事故は6月5日午後9時35分ごろ、下り線で発生。静岡市清水区の自営業萩山嘉久さん=当時(45)=と妻友香さん=同(39)=が死亡、15歳と11歳の娘2人がけがをした。
現場から約1.4キロ手前の中井パーキングエリアで、枠外に駐車した石橋容疑者に萩山さんが通りにくいと抗議。逆上した同容疑者が追跡し、友香さんが運転する車を追い抜いた上、進路を妨害するように走行を続け、追い越し車線上で止まった。同容疑者は、逮捕前の任意の聴取に「パッシングされたから止まった」と話したという。
逮捕容疑は、萩山さんの車の進路をふさいで停車させ、追突事故を引き起こした疑い。また、事故前に嘉久さんの腕や胸ぐらをつかむ暴行を加えた疑い。
この事故の直接の加害者は、追突したトラックですが、高速道路上の追い越し車線上に車を停車させていた2台の車にも全く責任がない訳ではありません。
目次
高速道路上に停車していた車と追突した車の過失割合は?
高速道路は時速80㎞以上の高速で走行することが許されている特殊な環境であり、最低速度を維持する義務を負っていることから、原則として駐停車は禁止されています。
その為に、一般道とは異なり、やむを得ない特別な事情がない限り、駐停車している車に後続車が追突した場合には、追突された車にも過失責任を負うとされています。
高速道路上に、事故やトラブルで駐停車している車に後続車が衝突した場合の過失割合
基本過失割合 | 追突車Ⓐ 60 | 駐停車Ⓑ 40 | |
修正要素 | Aが速度違反 | +10~20 | |
Bが退避不能かつ停止表示機材設置等 | +20 | ||
Aがその他著しい過失・重過失 | +10~20 | ||
視認不良 | +10 | ||
追い越し車線 | +10 | ||
Bの車道閉塞大 | +10 | ||
Bがその他著しい過失・重過失 | +10~20 |
高速道路に駐停車車両付近の歩行者の事故の過失割合
基本過失割合 | 追突車Ⓐ 60 | 歩行者Ⓑ 40 | |
修正要素 | 停止表示器材設置 | +20 | |
Aがその他著しい過失 | +10~20 | ||
Aの重過失 | +20~30 | ||
視認不良 | +10 | ||
歩行者がその他著しい過失・重過失 | +10~20 |
参考文献:「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」476項 493項 判例タイムズ社
上記判例タイムズ社の例では、追突したトラックの基本過失割合が60%となっていますが、今回の東名高速道路での事故では、午後9時35分頃に発生していることや、追い越し車線での駐停車であること、トラックの速度や車間距離などを総合的に判断して決定されることになります。
仮にトラックの過失割合が60%とすると。トラックが加入している自動車保険では以下のような支払いになります。
- 死亡したご夫婦の損害賠償金×60%(自賠責保険3000万については、過失相殺はなし)
- ケガをした二人の子供の治療費×60%(自賠責保険の120万円までは100%)
- 追突された車2台の修理費または時価額×60%
- その他間接損害があれば、その60%
死亡したご夫婦の賠償金は、それぞれの年収にもよりますが、合計で1億2,000万以上にはなると思います。
死亡したご夫婦の過失分は誰が払うのか
死亡したご夫婦の過失分40%は、事故の原因となった危険運転をして高速道路上に車を停車させた運転手に請求することになると思われますが、とても賠償資力があるとは思えませんので、ご夫婦が加入している自動車保険で支払えないか検討します。
ご夫婦が加入している人身傷害保険
今回の事故では、ご夫婦は車から降りて、車外での事故なので、加入している人身傷害保険の補償範囲が、車外での事故まで補償される内容であれば、ご夫婦の過失割合40%を請求することができます。
たとえ、ご夫婦が加入している自動車保険の人身傷害保険が、契約している車に搭乗している時だけの補償内容でも、同居している家族が、車外まで補償される人身傷害保険に加入していれば、そちらの自動車保険に請求することができます。
子供2人のケガについては、子供は車内での事故なので、無条件で人身傷害保険で過失分の40%は補償されます。
ご夫婦が加入している車両保険
今回事故では、ご夫婦の死亡や子供のケガだけでなく、車自体も相当な損害を受けていますが、ご夫婦が加入している自動車保険に、車両保険が付いていれば、ご夫婦の過失分の40%を請求することができます。
車両保険には、オールリスクタイプと限定補償のタイプと2種類ありますが、今回の事故では、車同士の事故なので、どちらのタイプの車両保険でも補償対象になります。
まとめ
高速道路で無理やり車を停車させて、車外でトラブルを起こした結果、二人も死亡させた悲惨な事故を起こさせた犯人は、「危険運転致死罪」で起訴されました。
危険運転致死罪は1年以上20年以下の懲役となる重い犯罪なので、今回のような被害に遭っても、加害者に賠償請求することは、ほとんど不可能です。
やはり自動車保険に加入すするときは、しっかり補償内容を確認して、「もしものとき」に備えておきましょう。