車を運転する人は、常に事故を起こしてしまう危険性を抱えて走っていますが、自動車保険に加入している人が事故を起こす確率は、約12%もあり、個人差は当然ありますが、10年運転していると平均1回は事故を起こすことになります。
物を壊しただけの事故であれば、対物賠償責任保険でその損害を賠償すれば事故はほぼ解決しますが、相手のある事故の場合は、100%自分が悪い(過失がある)とは限りません。
相手がある事故の場合に問題が出てくるのが、「過失割合」です。
過失割合とは
過失割合とは、事故を起こした当事者の責任割合のことで、相手に対する賠償は、自分の過失分を支払うことになり、逆に自分が被った損害は、事故の相手が相手の過失分を支払いますので、過失割合によって自分の支払い額と受け取る金額が大きく変わってきます。
自動車事故の過失割合の交渉は、多くは事故の当事者が加入している自動車保険の事故対応担当者が行いますが、過失割合を決めるのに参考にしているものは、過去の交通事故裁判の判決を参考にして書かれている「判例タイムズ(民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準)」です。
この「判例タイムズ」は、事故を338の種類に分類して、それぞれの事故形態により過失割合を設定していますが、ほとんどの自動車保険の事故担当者が参考にしているため、交通事故の過失割合は「判例タイムズ」に掲載されている事故例の過失割合で決まってしまうのが現状です。
例えば、自動車保険の事故担当者が、相手の自動車保険の担当者と交渉した結果、示された過失割合に、どうしても納得できない場合は、最悪裁判により決定されることになります。
裁判で示される判決は、過去の類似の事故の判決(判例)を参考にされる場合がほとんどで、「判例タイムズ」の内容と大きくは変わらない結果になります。
交通事故の内容によっては、相手が100%悪いと思っていた事故なのに、注意義務を怠ったなどの理由で、自分にも過失があると言われて、納得ができないことも決して少なくはありません。
基本となる過失割合と修正要素
交通事故の過失割合は、基本となる過失割合(基本過失)に「修正要素」を加味して決定されます。
修正要素とは、例えば「スピードの出し過ぎ」や「脇見運転」、「飲酒運転」など多岐にわたりますが、これらの修正要素については、交通事故の当事者の「動き」や「状態」といったものを対象としているため、その事実確認が難しく、事故の当事者双方が全く異なる主張をするケースが多くあり、この修正要素が原因で事故の交渉が長引く原因にもなります。
修正要素の種類
ここでは、車対車の事故の際に使われる16の修正要素について説明します
①幹線道路
幹線道路とは、歩道と車道の区別があって、片側2車線以上(車道の幅員が14m)で車が高速で走行し、通行量の多い国道や一部の都道府県道を想定しています。
幹線道路では「道路外出入り車と直進車の事故」の場合、路外車が幹線道路に進入する際は、通常の道路に比べて直進車に注意を払う必要があること、また、直進車は路外車の進入を回避する余地が非常に少ないことから、このような事故の場合、路外車に過失割合を加算修正することになります。
②見通しがきく交差点
見通しがきかない交差点の逆で、交差点進入直前では、沿道の建物、駐車車両、広告塔その他道路形状などにより、交差している道などの見通しがきかない交差点の場合には、車両は徐行しなければなりません。
信号機のない交差点の出会いがしらの事故は、ほとんど見通しがきかない交差点で発生していることから、信号機のない交差点での出会いがしらの事故の過失割合は、見通しがきかない交差点を前提にしているため、見通しがきく交差点で発生した事故の場合、左方優先のルールによる修正を加えることとしています。
③大型車
修正要素としての大型車とは、車両総重量が11,000㎏以上のものや、最大積載量6,500㎏以上のもの又は、乗車定員が30名以上のものなどを言います。
大型車の場合、全ての事故で修正要素とするわけではなく、大型車ゆえに事故の発生の危険性を高くした場合に限られ、おおむね5%程度の修正要素となります。
④右折禁止違反
道路標識などで、右折が禁止されている交差点で発生した事故については、右折した右折車に不利な修正要素となります。
⑤徐行なし
徐行とは車が直ちに停止できる速度で進行することで、交差点などでの右左折車に多く適用される修正要素です。
⑥減速
交差点での基本過失割合は、交差点手前で減速していることを前提にしていますので、減速をしていない車には、過失割合を修正することになります。
減速とは、徐行までは必要ないが、おおむね時速20㎞程度までの減速を前提としていて、衝突直前の急ブレーキなどは減速とはなりません。
⑦一時停止進入
交差点の一方に一時停止の規制がある場合の事故については、一時停止の義務がある方が、一時停止をしなかったことを前提に基本過失割合を決めていますので、実際に一時停止をしたけど、相手の車が接近する速度を誤って起きた場合などは、一時停止をしてから交差点に進入していますので、一時停止義務がある方の過失割合を減算修正します。
⑧明らかな先入
交差点の事故では、道幅が広い方(広路車)と狭い方(狭路車)の事故形態がほとんどですが、狭路車が先に交差点に進入している場合などは、狭路車が明らかな先入として過失割合を減算されることがあります。
この「明らかな先入」となる条件は、狭路車が交差点に進入したことを、広路車が認識してすぐに、ブレーキやハンドル操作などで、衝突を回避できた状態をいいます。
⑨早回り右折
交差点の中心の直近の内側を進行しない右折のことで、右折車が交差点の中心の直近を内側に寄らないで、早回りで右折することは、衝突の危険性を増大するものとして、基本過失割合の修正要素としています。
⑩大回り右折
交差点の手前で、あらかじめ道路の中心に寄らないで行う右折のことで、この場合は、他の車両から右折の可能性を予知できないため、事故の危険性が増大するので、基本過失割合の修正要素としています。
⑪直近右折
直進車の至近距離で右折することで、、対向車が通常の速度で停止位置を超えて交差点に進入しているときに、右折を開始した場合などがこれに該当します。
直進車の至近距離で右折することは、事故の可能性を増大させるものとして、基本過失の修正要素となります。
⑫既右折
直進車が交差点に進入する時点で、右折車が右折を完了しているか、または完了に近い状態のこと。
右折車が交差点に進入するタイミングが早ければ、それでけ直進車などが、衝突を回避できる可能性が高くなりますので、既右折の場合は、右折車に基本過失割合の修正要素として減算されます。
⑬法50条違反の交差点進入
信号機のある交差点に入ろうとする車は、渋滞などが原因で、交差点に進入した場合に交差点内で停止することがあるときは、交差点に進入してはならない(道路交通法50条1項)ルールになっていますが、これを守らずに、交差点に進入した場合は、右折車に基本過失割合の修正要素として加算されます。
⑭合図なし
直進車と対抗右折車との事故は、右折車の合図(ウインカーなど)がないことにより、直進者が対向車の右折を予見して、衝突を回避することが困難になることから、直進車の基本過失割合を減算修正することとなります。
⑮夜間
夜間とは日没から日出時までの他に、トンネル内や濃霧のときなどをいい、車両は灯火義務があります。
同じ道幅の交差点などは、車両の灯火により、相手車両の存在を容易に確認でき、事故を回避することが可能となるため、右方車に不利な修正要素としています。
⑯著しい過失と重過失
「著しい過失」とは、事故形態ごとに通常想定されている過失のことで、「重過失」とは、著しい過失よりも、更に重い故意に匹敵する過失のことです。
著しい過失の例
・わき見運転や著しい前方不注意
・著しいハンドルやブレーキ操作誤り
・携帯電話などを通話のために使用したり、画像を注視しながら運転すること
・速度超過違反(高速道路以外で約15㎞~30㎞オーバー)
・酒気帯び運転
重過失の例
・酒酔い運転
・居眠り運転
・無免許運転
・速度超過違反(高速道路以外で約30㎞以上オーバー)
・過労、病気及び薬物の影響その他の理由で正常な運転ができない状態での事故
事故現場で確認しておくべき5つのこと
交通事故が発生したあと過失交渉では、事故形態による基本過失とその修正要素で決定されます。
修正要素に関しては、事故の当事者双方の「言い分」でかなり変わってきますので、事故の時に、しっかり相手との見解を統一しておくことが重要です。
交通事故を起こした場合は、警察に通報すれば簡単な現場検証が行われますが、以下のことをしっかり警察を交えて、確認しておくことをおすすめします。
①事故時のお互いの車の位置関係
警察からも詳しく聞かれますが、事故が起きた時の相手と自分の車の位置関係を確認します。
②事故直前の車の動きの確認
事故の相手の事故直前のブレーキ操作やハンドル操作などの方法を詳しく確認します。
③双方の車の衝突箇所の確認
お互いの車の衝突箇所を確認することが重要であり、これを確認することで、双方の車がどのような動きをしていたかが確認でき、該当する修正要素を主張することができます。
④接触時のお互いの速度を確認する
接触時のお互いの速度を確認することで、速度違反による修正要素が適用できるかどうかがわかります。
修正要素では、直進車の速度違反や、右折車の徐行の有無が重要になります。
⑤事故の相手に確認すべきこと
事故直後に相手と会話をする時には、必ず「わき見運転」や「携帯電話の使用」、「著しいハンドル・ブレーキ操作」などがあったどうかの確認を、できれば警察官立ち合いのもとで確認してください。
まとめ
交通事故が起きて、後に自動車保険の事故処理担当者が、相手や相手が加入している自動車保険の事故処理担当者と交渉する時に、現場で聴取した内容と相違している場合が多くあります。
例えば、事故現場では、「携帯電話で会話をしていた」と言っていたのに、自分が加入している自動車保険の担当者には、「携帯電話は使っていない」などと真逆な主張をしたりします。
事故現場では、必ず警察の現場検証を受けて、警察官立会いの下で、事故の時の状況を確認し合うことが重要です。
警察は事故現場の現場検証をすると実況見分調書を作成しますが、これを作成すると、後日「交通事故証明書」が請求できます。
この交通事故証明書には、①事故の発生日時・場所、②事故当事者の氏名・住所等、③運転車両の車両番号(登録番号又は車両番号)、④加入自賠責保険会社と証明書番号、⑤事故の類型、⑥人身事故か物件事故の区別などが書かれていますが、単に事故が発生したことの証明にしかなりません。
事故現場などで、事故の当事者がお互いに確認し合った事実は、できれば書面にして、双方の確認のサインなどをしておくと後日の証拠となります。
最近では、ドライブレコーダーが低価格化と共に、かなり普及してきましたが、事故前後の画像が残りますので、貴重な事故状況の証拠となります。
これにより、交通事故の過失割合を有利な方向にすすめることができます。