交通事故でケガをして、病院で治療を受ける場合に、事故の相手が加入している自動車保険の事故担当者から、健康保険などの社会保険を利用しることを必ずすすめられます。
交通事故で被害者になった場合は、加害者が治療費などを全額支払ってもらえるので、基本的に自分が加入している健康保険などの社会保険を使う必要はありませんが、事故のパターンによっては、健康保険などを使った方が良い場合があります。
ケガの治療のために整形外科などの病院に行っても、必ず『交通事故ですか?』と聞かれて、交通事故でのケガでは、健康保険などの社会保険は使わず、「自由診療」になります。
目次
自由診療と健康保険診療の違い
自由診療と健康保険診療の治療内容の差はほとんどありませんが、治療費が全く違います。
健康保険診療の場合は、治療内容が点数化されていて、1点あたりの治療費が決められてるために、治療内容により請求される治療費が安く抑えられています。
それに対して自由診療は、病院が勝手に治療費を決めているために、健康保険診療の2倍の治療費になることは珍しくありませんので、多くの病院では、自由診療での治療をしてしまいます。
健康保険は、サラリーマンなどが加入する「職域保険」、自営業者などが加入する「国民健康保険」、75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」に区別されます。
職域保険は、「組合健康保険」、「全国保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)」、「船員保険」、「共済組合」などがあります。
健康保険は、加入者が業務外や通勤途中なのど事故によるケガ以外が対象で、業務中や通勤途中の事故の場合は、「労災保険}が対象になり、健康保険と労災保険は両方使うことはできません。
交通事故でケガをした時に健康保険などの社会保険は使える?
交通事故でケガをした場合などに、病院に治療に行きますと、病院側で自由診療をしようとしますが、受診した本人が、健康保険を使うことを希望すれば、健康保険受診ができる仕組みになっています。
犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法、船員保険法、国民健康保険法及び高齢者の医療の確保に関する法律)において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています。
まともな医療機関(病院)であれば、患者が交通事故で受けたケガの治療に健康保険を使うことに対して、何ら抵抗することなく、健康保険受診を認めますが、中には、頑として自由診療での受診を主張する病院も存在します。
(前述のように、自由診療の方が治療費を倍額請求できるため)
健康保険を使った方がいい場合は
交通事故でケガなどを被った場合、必ずしも相手側が100%悪いとは限りませんので、多くの事故の場合、自分にも過失が発生することになります。
例えば、交差点での事故で、以下のパターンの場合
・
幹線道路で、直進車Ⓑと路外から進入してきたⒶさんの事故の場合の基本過失割合は
歩行者Ⓐさんの過失割合20%
直進車Ⓑさんの過失割合80%
になります。
この事故で、Ⓐさんがケガをして、病院で治療を受けた場合、治療費の20%は自己負担になります。
*自賠責保険では、20%の過失割合では、治療費が全額支払われるため、治療費が自賠責保険の支払い限度額(120万円)を超えた額の20%が事故負担になります。
Ⓐさんは、この交通事故で被ったケガの治療で病院に行った場合、もし自由診療であれば、健康保険診断の倍の受診料が必要であり、その高い受診料の20%を自己負担することになります。
結論から言うと、相手が100%悪い事故でなければ、事故で被ったケガの治療は、ケガの程度が重いほど健康保険を使うべきです。
健康保険を使わない場合と使った場合の比較
対人事故で、自分に20%過失がある場合の、受け取れる保険金の比較は以下のとおりとなります。
条件
〇交通事故の過失割合:相手80% 自分20%
〇自由診療の治療費は健康保険治療の2倍
〇ケガによる休業損害120万円
〇慰謝料80万円
支払い項目 | 自由診療の場合 | 健康保険診療の場合 |
治療費 | 400万円 | 60万円 治療費200万円×30%(患者負担) |
休業損害 | 120万円 | 120万円 |
慰謝料 | 80万円 | 80万円 |
合計 | 600万円 | 260万円 |
過失相殺20% | ▲120万円 | ▲52万円 |
損害賠償額 | 480万円 | 208万円 |
病院に支払う治療費 | 400万円 | 60万円 |
自分が受け取れる金額 | 80万円 | 148万円 |
結果的に健康保険を使ってケガの治療をした方が、約68万円受取額が多くなります。
更に傷病手当金が受け取れる場合も
国民健康保険以外の、組合健康保険や、全国保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)、船員保険、共済組合に加入していれば、休業補償として、「傷病手当金」が受け取れる場合があります。
傷病手当金の支給要件は
①組合健康保険などの被保険者(被扶養者は対象外)が病気やケガなどの療養のために、業務に従事できないこと。
②休業期間が3日間を超える場合
③休業期間中に傷病手当金以外の支給や報酬を得ていないこと。(有給休暇を利用した場合などは対象外になります)
支給額は
病気やケガの療養などで、休業した日数の4日目以降、1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する額
*事故の相手から休業損害が支払われる場合、その支払い額から傷病手当金相当額が差し引かれますが、傷病手当金には過失相殺がありませんので、実質は受け取れる金額は増えることになります。
上記の例で、傷病手当金が72万円とすると、受け取れる金額は、164万円となり、16万円増えることになります
治療費の支払い方法は
自由診療の場合、治療費はケガをして受診している病院から、交通事故の相手が加入している損害保険会社に直接請求してもらい、受診している自分には一切請求が来ませんので、治療費の一時立て替え払いをする必要はありませんが、健康保険を使って、健康保険診断をする場合は、受診者の自己負担分(30%の自己負担分)を相手の損害保険会社に請求してくれない病院もあります。(もちろん損害保険会社に直接請求してくれる病院もあります)
この場合、損害保険会社は、自己負担分に相当する金額を、受診者にあらかじめ支払ってくれる制度などがありますので、健康保険を使って健康保険診断をしても安心です。
労災保険が適用になる場合
業務中や通勤途上に交通事故を起こして、ケガなどをした場合、健康保険を利用しての健康保険受診ではなく、「労災保険」を使っての治療になります。(業務中や通勤途上でのケガは、労災保険が適用される場合、健康保険の対象にはなりません)
労災保険は、健康保険証などがないため、病院に労災保険での治療をすることを告げれば、労災保険での治療を開始することになります。
交通事故でのケガの治療に労災保険を使った方がいいのか、使わなくていいのかは、健康保険の場合と同じで、自分にも過失がある事故では労災保険を使った方が受け取れる保険金が多くなります。
自由診療と労災保険を使った場合の比較
交通事故のケガなどの治療を自由診療で受けた場合と労災保険を使って受けた場合の比較
条件
〇交通事故の過失割合:相手80% 自分20%
〇自由診療の治療費300万円
〇ケガによる休業損害100万円
〇慰謝料150万円
支払い項目 | 自由診療の場合 | 労災保険を使った場合 |
治療費 | 300万円 | なし(全額労災保険が負担) |
休業損害 | 100万円 | 100万円 |
慰謝料 | 150万円 | 150万円 |
合計 | 550万円 | 250万円 |
過失相殺20% | ▲110万円 | ▲50万円 |
損害賠償額 | 440万円 | 200万円 |
病院に払う治療費 | ▲300万円 | なし |
自分が受け取れる金額 | 140万円 | 200万円 |
*更に労災保険から休業給付(標準報酬月額の60%で60万円)の支給があった場合は、受け取れる金額が12万円増えることになります。
労災保険の特別支給金
労災保険では、ケガの治療費や休業給付以外にも、「労働福祉事業」に基づく「特別支給金」を受けることができます。
ケガの治療費や休業給付は自動車保険や自賠責保険との調整がありますので、二重には受け取れませんが、特別支給金は二重に受け取ることができますので、単純に受け取れる金額がその分増えます。
特別支給金の例
①休業特別支給金
休業特別支給金は休業4日目から、休業給付基礎日額の20%に相当する額が支給されます。
②障害特別支給金
障害特別支給金は、障害補償給付(後遺障害による給付金)の受給者に対して支給される一時金です。
支給金額は、第1級(342万円)~第14級(8万円)まで認定された障害のランクに応じて受け取ることができます。
まとめ
交通事故でケガなどを被った場合には、相手の自動車保険の事故担当者から、健康保険や労災保険を使っての治療をするよう依頼されますが、自分が被害者である場合などは、『なんで?』と思うことがあります。
自動車事故なので、相手の自動車保険で全ての治療費を払ってもらうのに、自分が加入している健康保険などを使う必要があるとは思えません。
しかしながら、交通事故は自分にも過失がある場合が多く、自分のケガの治療費も自分の過失割合分は、自己負担となることもありますので、事故の形態によっては、健康保険などの社会保険を使うことも検討しましょう。
交通事故のケガの治療に、自分が加入している健康保険などを使うことで、受け取れる保険金額が増えることもあります。