2022年5月から導入される高齢運転者の運転技能検査のポイントと改正の問題点

高齢者の免許更新制度改正 交通事故の豆知識

増え続ける高齢運転者の交通事故対策として、75歳以上の運転者を対象とした「運転免許更新制度」が2022年5月から改正されることになりました。
新しく施行される新制度では、75歳以上の高齢運転者が過去3年間に一定以上の交通違反がある運転者は運転技能検査が義務付けになります。

高齢者の運転免許更新制度改正の背景

今回改正される75歳以上に適用される運転免許更新制度は、2016年10月に発生した神奈川県横浜市の集団登校中の小学生が犠牲になった事故や、2019年4月に発生した東京都豊島区での母子死亡事故などの高齢運転者による悲惨な事故が引き金になり、高齢運転者の運転免許更新制度への見直し機運が高まったことが背景になります。

2019年からの過去10年間では、人口10万人あたりの事故発生件数は、75歳未満では3.1人であるのに対し、75歳以上では6.9件と2倍以上となっており、今後の超高齢化社会の到来を見据えて2020年6月に道路交通法が改正され、2022年5月から施行されることになりました。(2019年警視庁の交通事故統計から)

高齢者の交通事故原因の第一位は「運転操作不適」

自動車運転者による年齢別死亡事故の人的要因比較では、「運転操作不適」による事故の割合が75歳未満では16%なのに対し、75歳以上では28%と1.75倍となっており、運動能力の低下が交通死亡事故の原因となっていると考えられます。

自動車運転者による年齢別死亡事故の人的要因比較では、「運転操作不適」が75歳未満の運転者が16%であるのに対し、75歳以上の高齢運転者では28%と1.75倍となっています。
このうちハンドル操作操作不適が75歳以上の高齢運転者では13.7%とブレーキの踏み間違いが7%で運動能力の低下が原因と考えられます。

特集-第40図 死亡事故の人的要因比較(令和元年)。75歳以上高齢運転者、75歳未満の運転者。75歳以上高齢運転者は、操作不適の割合が高い

内閣府「未就学児等及び高齢運転者の交通安全緊急対策について」から引用

2017年3月に改正された高齢運転者の免許更新制度では、運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、高齢者講習の前に認知機能検査を受けなければならないこととされていますが、 警察庁の調査研究を見ていくと、2018年に認知機能検査を受けた約216万5000人のうち、「認知症の恐れ」があるとする第1分類と判定されたのは延べ約5万4700人(2.5%)居ましたが、再受検の結果、「認知機能低下の恐れ」(第2分類)または「認知機能低下の恐れなし」(第3分類)とされた人が約8700人存在しています。

死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、約半数は直近の認知機能検査で第3分類「認知機能低下の恐れなし」と判定されていることも明らかになっており、認知機能検査の結果が全ての事故の防止につながっていないのが現実であり、認知症診断でなく、実際の運転技能で判断することが高齢運転者の事故防止には必要と判断されました。

2022年5月改正の75歳以上の運転者を対象とした「運転免許更新制度」の概要

今回の75歳以上の運転者を対象とした「運転免許更新制度」改正では、「運転技能検査」の新設とともに、「認知症検査の方法や内容の変更」と「高齢者講習の一元化」も行われます。
また、「安全運転サポート車等限定条件付免許」が新設され,申請により条件を付与又は変更することができるようになります。

サポカー限定免許

2022年5月新しく導入される「サポカー限定免許」は運転できる車が少なすぎて現実的ではない?

新設される「運転技能検査」の内容とは

「運転技能検査」は75歳以上の高齢運転者で、誕生日の160日前までの過去3年間に「一定の違反歴(違反行為)」がある場合、実車を使った運転技能検査が義務付けされ、検査に合格できなければ運転免許が更新できなくなります。
「一定の違反歴(違反行為)」とは、信号無視、通行区分違反、通行帯違反等、速度超過、横断等禁止違反、踏切不停止等・遮断踏切立入り、交差点右左折方法違反等、交差点安全進行義務違反、横断歩行者妨害等、安全運転義務違反、そして携帯電話使用等になります。

運転技能検査の採点基準

今回新設された「運転技能検査」は、自動車教習所等のコース内を走行し、以下の課題を運転行為の危険度に応じて100点満点から減点方式で実施されます。
第一種免許の場合は70点以上で合格になります。(第二種免許は80点以上で合格)

課題減点項目判断基準点数
指示速度による走行
(1回)
課題速度速度指定区間を支持速度よりおおむね10km/h以上遅い又は速い速度で走行した場合-10点
一時停止
(2回)
一時不停止(大)道路標識による一時停止場所で、車体の一部が停止線を超えるまで停止せず、かつ、車体の一部が交差点に入るまでに停止しない場合-20点
一時不停止(小)道路標識による一時停止場所で、車体の一部が停止線を超えるまで停止しなかったものの、車体の一部が交差点に入るまでに停止した場合-10点
右折・左折
(各2回)
右側通行(大)車体の全部が道路の中央線から右にはみ出して通行した場合(道路交通法第17条第5項各号に該当する場合を除く)-40点
右側通行(小)車体の一部が道路の中央線から右にはみ出して通行した場合(道路交通法第17条第5項各号に該当する場合を除く)-20点
脱輪宴席に車輪を乗り上げ又はコースから車輪が逸脱した場合-20点
信号通貨
(2回)
信号無視(大)赤色信号が表示されているときに、車体の一部が停止線を超えるまで停止せず、かつ、車体の一部が横断歩道に入るまで停止しなかった場合-40点
信号無視(小)赤色信号が表示されているときに、車体の一部が停止線を超えるまで停止しなかったものの、車体の一部が横断歩道に入るまでには停止した場合-10点
段差の利上げ
(1回)
乗り上げ不適タイヤの中心が段差の端からおおむね1mを超えるまでに停止しなかった場合-20点
全課題共通補助ブレーキ等走行中危険を回避するために検査員がハンドル、ブレーキその他の操作を補助し、または是正処置を指示した場合(上記項目に該当しなかった場合に限る)-30点

*課題下の()内の数字は採点の上限回数でこれを超えても採点はしない
出典:「改正道路交通法(高齢運転者・第二種免許等の受験資格のも直し)の施行に向けた調査研究報告書」

なお、警察庁が実施した実験(実施時期:令和2年8月1日から9月3日まで)の結果では、不合格者が約2割となっています、
ただし、更新期間中であれば、何回でも受験できます。

警察庁が実施した実験の結果、不合格者の約85%が「一時不停止」で減点となっています。
各課題別の減点された割合は以下のとおり

課題項目全体平均合格者不合格者
一時不停止(大・小)47.2%36.8%85.1%
右側通行(大・小)14.7%5.3%48.9%
脱輪1.4%1.2%2.1%
信号無視(大・小)2.8%1.2%8.5%
乗り上げ不適15.1%8.8%38.3%
補助ブレーキ等11.9%7.6%11.9%

認知機能検査の変更点

今回の「運転免許更新制度」改正では、認知機能検査が高齢運転者や実施機関の負担を軽減するために、簡素化・効率化が図られています。

具体的には、今までの検査である➀時間の見当識➁手がかり再生➂時間の描画から、③時間の描画が削除されます。
これにより、今まで約30分かかっていた検査時間が20分に短縮されることになります。
また、従来は紙に記入する方法で行われていましたが、タブレット端末にタッチペンで入力する方法に変わります。(当面は紙による検査も併用される)

判定結果については、従来第1分類(認知症のおそれ)、第2分類(認知症低下のおそれ)、第3分野(認知症低下の恐れなし)で判定されていましたが、新制度では、36点未満(認知症のおそれあり)と36点以上(認知症のおそれなし)の2区分となります。

認知症検査の結果、36点未満になれば、医師の診断を受けることになり、診断結果が「認知症でない」場合は高齢者講習を受講して免許証の更新ができますが、「認知症である」と診断されれば免許の取消等になります。

改正後の75歳以上の方の運転免許更新手続の流れ

警視庁のHPより引用

認知機能検査と高齢者講習(警視庁HP)

検査・講習手数料の変更

2022年5月13日以降75歳以上の高齢者が運転免許証を更新する際に、試験場や自動車教習所で受ける高齢者講習などの手数料が実質値上げになります。
基準となる手数料は以下のとおりとなります。

手数料の種別・区分現行改定後
認知症検査手数料750円1,050円
運転技能検査手数料(新設)3,550円
高齢者講習手数料実車あり合理化(2時間)5,100円6,450円(2時間)
高度化(3時間)7,950円
臨時(2時間)5,800円
実車なし合理化(2時間)2,250円2,900円(1時間)
高度化(3時間)4,450円
臨時(2時間)2,350円

安全運転サポート車等限定条件付免許(サポカー限定免許)新設

サポカーとは、安全運転サポート車のことで、衝突被害軽減ブレーキなどの技術で、ドライバーの安全運転を支援してくれる車のことを言います。
しかし、この限定免許で運転できる車種は、すべてのサポカーを運転して良いわけではなく、具体的には以下の2種類が認められます。

  • 令和2年度(4月)以降の製造で、国の認定を受けた自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)と、ペダル踏み間違い(急加速)防止装置のある車
  • 令和3年11月以降に販売する、国産新型車に義務付けられた自動ブレーキの保安基準を満たした車

政府は令和3年度中に満65歳以上となる方を対象として「サポカー補助金」を行っていました。
これにより、安全運転サポート車の購入(新車・中古車)と、後付けのペダル踏み間違い(急発進)抑制装置の普及が推進されましたが、実際には「サポカー限定免許」で運転できる車は、普及しているサポカーのごく一部のみしか対象にならないのが実情です。
尚、サポカー限定免許は年齢制限はなく、高齢者以外でも希望すれば切り替えることができます。

サポカー限定免許で運転できる対象車種は警視庁のHPに記載されています。

サポカー限定免許

2022年5月新しく導入される「サポカー限定免許」は運転できる車が少なすぎて現実的ではない?

高齢者の運転免許更新制度改正の問題点

今回の75歳以上の運転者を対象とした「運転免許更新制度」改正は、高齢運転者にとって自身の運転を振り返り、運転免許の返納を検討する機会になることが想像できます。
2019年4月に発生した東京・池袋の乗用車暴走事故で母子が死亡した悲惨な事故から3年がたち、乗用車を暴走させた90歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で禁錮5年の判決を言い渡されて実刑が確定し、高齢者対応の施設に収容されています。

この事故をきっかけに、免許証を返納する高齢者が増加していますが、免許証を返納する際は、返納者の生活レベルをどのようにして維持していくかが重要となります、
また、高齢者本人だけでなく、その親族も免許証返納の説得することに付随して、どのようなサポートができるかも併せて考える必要があります。

今回の改正では、安全運転サポート車(サポカー)のみを運転することができる限定免許制度(サポカー限定免許)も実施されます。
地方に居住するなど、生活に不可欠で免許返納に踏み切れない高齢運転者は、車に安全運転を支援してもらうことも必要になりますが、サポカーを購入するとなると、購入資金の問題もでてきますので、簡単に購入することは困難です。
一般財団法人次世代自動車振興センター」が行っていた「サポカー補助金(新車・中古車)」は2021年11月19日に申請受付が終了し、後付け機械装置の申請受付も2021年10月29日に終了しています。
後付けの機械装置も3万円から5万円くらいで発売されていますので、今後も公的機関が資金援助するなどの対策が必要になります。
高齢者から運転免許証を取り上げることのみを進めても、問題の解決にはなりません。

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