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2017年5月の民法改正とは
明治29年(1896年)の民法制定以来、なんと約120年ぶりに民法の債権部分を抜本的に見直し、2017年5月26日に通常国会で民法改正案が成立しましたが、その中で債権関係の規定について、当事者間で利率を定めていない際に適用する「法定利率」は引き下げるとされました。
法定利率は現在年5%で固定されていますが、低金利が続く現状にあっていないため、年3%に引き下げ、更に3年ごとに利率を見直す変動制も導入されます。
この法定利率が5%から3%に引き下げられることが人身事故の賠償金に大きく影響します。
人身事故の賠償金から将来の利息(中間利息)を差し引く理由
人身事故の損害賠償金は、基本的に3つの要素で構成されています。
- 被害者の逸失利益(事故がなければ将来得たであろう収入)
- 被害者や遺族の慰謝料
- 葬儀費や治療費など
この中で、被害者の逸失利益は将来の収入の補償ですから、賠償金の中でも高額になり、何百万から何千万、場合によっては億単位のまとまったお金が、被害者や遺族に支払われます。
逸失利益は、被害者が事故に遭わなければ、被害者が働くことで、生涯にわたって月々入ってくるものですが、賠償金として支払われると、一時金として受け取る事ができます。
そのお金を銀行に預けたり運用したりすると、利息が付きますので、被害者側は「現実の損害を上回る利益」を得ることになります。
被害者側が「現実の損害を上回る利益」を得ることは、損害賠償金として民法上好ましくないので、被害者側が受け取る賠償金から将来受け取るであろう利息を差し引くのです。
この時使われる利率が5%から3%に引き下げられるので、利息として差し引かれる金額が少なくなり、結果的に受け取る損害賠償金が多くなります。
逸失利益を計算する時使われる「ライプニッツ係数」が変わる
ライプニッツ係数とは、受け取った賠償金により、将来受け取るであろう利息による利益を控除するために使う指数です。
死亡事故の時に被害者に支払われる損害賠償金の中の逸失利益は以下のように計算されます。
このライプニッツ係数が、法定利率引き下げにより、大きく変わることになります。
死亡時年齢 | 利率5% | 利率3% |
20歳 | 17.981 | 25.024 |
30歳 | 16.711 | 22.167 |
40歳 | 14.643 | 18.327 |
50歳 | 11.274 | 13.166 |
60歳 | 8.863 | 9.954 |
民法改正で増える死亡事故の賠償金の額は?
民法改正で法定利率が引き下げられることで、どのくらい交通事故の損害賠償金が増えるのでしょうか?
以下の一般的な例で試算してみました。
年齢40歳、一家の支柱で年収500万円、被扶養者2名(配偶者、子供一人)の方が死亡した場合の賠償金は、以下のとおりです。(葬儀費等は仮定で試算)
民法改正で法定利率が3%となり、ライプニッツ係数が変わった場合は
なんと1,289万円も賠償金が増えることになります。
実際に賠償金が増えるのは2020年4月から
2017年5月26日に民法改正案が成立しましたが、同年12月20日に、「民法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(平成29年政令309号)が公布され、改正民法の原則的な施行期日は、2020年4月1日とされました。
その結果、実際に損害賠償金が増えるのは、2020年4月1日以降に発生した事故からになりますので、それまでに発生した交通事故の賠償金は、現在の利息が適用されます。
法定利率が下がっても、賠償金が減ることもある?
交通事故が発生して、被害者が死亡や後遺障害となった場合には、多くは裁判になり、解決してから賠償金が支払われるまで相当の日数がかかります。
その場合には、事故の発生日から賠償金が支払われるまでの期間に「遅延損害金」が発生しますが、その利息の計算も法定利率が適用されますので、結果的に損害賠償金は減ることになります。
また、今回の民法改正で法定利率は3年ごとに見直す制度も導入されましたので、その見直しによって、賠償金が増えたり減ったりします。
まとめ
今回の民法改正は、120年ぶりの大きな改正ですが、法定利率の5%は、超低金利の現在では、現実とかけ離れていますので、妥当な改正です。
それでも3%の法定利率もまだまだ高すぎますが、3年ごとの見直し制度も導入されましたので、更に賠償金が増えていくでしょう。
実際に賠償金が増えるのは、ライプニッツ係数を使う死亡や後遺障害の場合ですが、交通事故の損害賠償金は遺族の生活に必要不可欠なものなので、しっかり現実に即した損害賠償金として欲しいものです。