2019年5月に道路運送車両法の一部を改正する法律が公布され、2023年1月から自動車検査証が順次電子化されます。(以下電子化された自動車検査証を「電子車検証」といいます。
この電子検査証とはどのようなものなので、自動車保険や自賠責保険の手続きに与える影響について解説します。
目次
なぜ電子車検証なのか
今回の車検証電子化の背景は、世界的にデジタル・トランスフォーメーションの拡大が進んでいる中、日本においても行政部門のオンライン化に力を入れていて、その取り組みの一つが自動車検査証の電子化です。
また、自動車の登録・検査に係る申請は年間3000万件以上あると言われており、自動車関連事業者の負担が大きく、その手続きの簡素化を図ることも狙いとなっております。
電子車検証の概要は
今回電子車検証が導入されるのは、2023年1月4日以降に新規登録や継続車検を行う車両になります。
*検査対象軽自動車の電子車検証導入は1年遅れて2024年1月からになります。
電子車検証の記載事項
現在は車検証券面記載事項に変更があった場合、運輸支局等への出頭が必要ですが、電子車検証の導入により、整備事業者等がオンラインで更新することができるようになります。
そのために、電子車検証の券面には、変更登録等による記載事項の変更を伴わない基礎的な情報のみが記載されます。
車検の有効期間や使用者住所、所有者情報等は電子車検証券面上は記載されず、ICタグに記録されることになります。
電子車検証とICタグに記載される情報はそれぞれ以下のとうりです。
電子車検証記載事項
〇自動車登録番号や車両番号 〇登録年月日や初度登録年月 〇車名・型式 〇長さ・幅・高さ 〇原動機の型式 〇総排気量または定格出力 〇用途 〇車体番号 〇自動車の種別 〇車体の形状 〇燃料の種類 〇自家用・事業用の別 〇乗車定員や最大積載量 〇使用者の氏名または名称
ICタグ記載事項
〇自動車検査証の有効期限 〇所有者の氏名・住所 〇使用の本拠の位置 〇使用者の住所
車検証閲覧アプリとは
電子車検証では、継続検査や変更登録等の影響を受ける項目はICタグに記録されますが、ICタグに記載された情報は、国土交通省から提供される「車検証閲覧アプリ」で24時間365日閲覧できます。
また、車検証閲覧アプリにより、従来の車検証と同等の情報が記載されたPDFファイル「自動車検査証記録事項」をプリントすることができます。
*電子車検証導入開始から3年間は、電子車検証と併せて紙の「自動車検査証記録事項」が交付される予定です。
自動車保険や自賠責保険の手続きに必要な場合の取扱い
現在自動車保険や自賠責保険の手続き時に、車検証のコピーを確認資料として保険会社に提出する場面がありますが、電子車検証への移行に伴いどのような影響があるのでしょうか。
保険会社への車検証コピーの提出要否はは実務上変わりませんが、車検証コピーの代わりに、当面の間紙で発行される「自動車検査証記録事項」で代用できるようです。
また、紙の「自動車検査証記録事項」が廃止された後でも、「車検証閲覧アプリ」でプリントできる「自動車検査証記録事項」を使えば大丈夫です。
電子車検証導入は自動車ユーザーにメリットがあるのか
現在紙で発行されている車検証が電子車検証に移行することで、自動車ユーザーにどのようなメリットがあるのでしょうか?
紙の車検証はサイズがA4サイズですが、電子車検証はA6サイズになるため、持ち運び(車に保管)がしやすくなりますが、その他のメリットはあまりないようです。
反面、自動車整備工場やディーラー、自動車販売店等には以下のメリットがあります。
- 現在車検証は申請自体は電子申請で行える反面、紙での発行のため受け取りに運輸支局に出頭しているが、それが解消される。
- 運輸支局への出頭が必要なくなり、労働時間の短縮や効率アップが期待できる(自動車整備業などは3K職種として人材不足である)
- 車両情報が電子化されるため、車検切れや不正改造の防止やリコール情報等の管理に活用できる。
新たに親切される「記録等事務代行サービス」とは
電子車検証がスタートすると、車検などでICタグ内の情報を新しい内容に書き換える必要がありますが、自動車整備業者等が運輸支局に出頭しなくても済むように、新たに「記録等事務代行サービス」が開始されます。
運輸支局長等から委託を受けた記録等事務代行者(主に行政書士事務所)による電子車検証の記録更新及び検査標章等の印刷を可能とする記録等事務代行サービスが新たに導入されます。
このサービスを通じて車検証書換等事務を実施することにより、国の審査を経た車検証の情報の書き換えが可能となります。
電子車検証の導入されても残る運輸支局等への出頭とは
ICタグ内の情報ではなく、電子車検証の券面記載事項に変更が生じる場合には、運輸支局等において新たに電子車検証を交付することになるため、以下の場合には出頭が必要となりますが。
- 新規登録:車検証の交付を受けるため運輸支局等への出頭が必要
- 抹消登録:車検証を返納する必要があるため運輸支局への出頭が必要
- 新規検査:車検証の交付を受けるため運輸支局等への出頭が必要
まとめ
今回の電子車検証の導入は、デジタル化推進のための、行政部門のオンライン化が目的ですが、自動車関連事業者の負担軽減も重要な目的であると考えられます。
自動車整備工場などは、低賃金・長時間労働が常態化しており、高齢化も相当すすんでいます。
国の働き方改革からは程遠い労働環境なので、その改善のための取り組みです。
自動車ユーザーにはあまりメリットがありませんが、デメリットもないようです。